2021年10月

2021年10月04日


松本さん以外の審査員の変更が発表され、お笑いの日の中で一人ずつ発表された新審査員は東京03飯塚さん、バイきんぐ小峠さん、ロバート秋山さん、かまいたち山内さんというメンバーでした。

いずれも過去のチャンピオンで今も現役でネタをやっていて、かつテレビでもそれぞれの地位を獲得してきた人たちです。ネタ書き担当という点は共通していながら、トリオのツッコミ、コンビのツッコミ、トリオのボケ、コンビのボケと立ち位置がそれぞれに違っているのが面白いと思いました。

・蛙亭 人造人間
中野さんに悲鳴が!でもその後の緊張と緩和がしっかりと決まってちゃんと盛り上がったので、今年のお客さんは笑ってくれる人たちなのかなと思いました。
よくよく見ると中野さんはそこまで突飛な格好はしていないんですが、それでもものすごく気持ち悪い。
後半もまでずっとウケていましたが、もっとテンポが上がればもっと盛り上がったのかなと思います。ただそういうテンポでやる芸風ではないのも事実ですよね。
点数は461点。

・ジェラードン 幼なじみ
言っていることは合っている、でも…というタイプのネタの中ではとてもキャラクターが強く、そのインパクトでぐいぐいと笑わせていくネタ。
小峠さんのコメントで、海野さんが二人にあまり絡まない点を評価していましたが、この後登場人物同士の絡みがきちんとあるコントがどんどん出てきたところを見ると、そういうコントの後の出番だったらもっと点が伸び悩んだかもしれません。
点数は462点。

・男性ブランコ ボトルメール
顔の知らない文通相手と初めて会う、白いワンピースを着てきた彼女の見た目だけならまだギリ大丈夫かも、でも喋り始めたら…というところでまずドカンと来て、でも男性の方はイメージ通りだと喜んでまたドカン。そこからさらにどんどん笑わせていく、素晴らしいネタです。
こんな強烈な人でイメージ通りって、一体どんな文面をやりとりしていたんだと思うとめちゃくちゃ面白いです。
点数は472点。

・うるとらブギーズ 迷子センター
前半の慌てたお父さんも面白いし、そこから後半のアナウンスが始まった時の、「そうだよね、確かにそうなっちゃうよね」という面白さたるや。人のこういう感情を笑いに変えさせたら彼らの右に出る人はいないと思います。
聞いたことをそのまま言わなきゃいけないのが迷子センターだし、こういう服の何歳ぐらいの…と言うアナウンスを聞いた時に「他にもいたらどうなるんだろう」とちらっと思ったことは誰にでもあるかもしれません。それをこういう決して大げさでない形で笑いにするというのは、外見にそこまで特徴がなくて誰にでもなれる二人だからこそ絶妙に突けるポイントだと思います。
点数は460点。

・ニッポンの社長 バッティングセンター
反省会で触れられていましたが、当たる音が絶妙なんですよね。オチでおじさんがすごくバッティングがうまいのも最高です。ここで「うまいというオチだけどスイングはそこまでいいわけではない」という状態だと面白さは半減してしまうと思うので、きっちりスイングを仕上げているのも素晴らしい。そしてこれが面白いことをわかって作っているというのが一番すごいです。
点数は463点。

・そいつどいつ パック
刺身さんの女装や女性の演技って絶妙ですよね。背後の壁がコンクリート打ちっぱなしなことも、二人がどういうカップルなのかをなんとなくイメージさせます。ホラーあるあるで緊張と緩和を繰り返した後、一気に不穏な感じにさせてオチのセリフで終わりますが、彼氏がショック死したように見えました。
点数は456点。

・ニューヨーク ウェディングプランナー
若手随一の売れっ子で優勝候補のニューヨーク。いけすかないのに仕事ができない人かと思ったら競艇をやり始めて、そこから嶋佐さんの見え方が一変してくるのはさすがです。終盤はとにかくめちゃくちゃになっていく面白さがありましたが、それがその分のウケにつながっていたかというと…。目にテープを貼っているのはなぜだろうと思っていましたが、ギャンブルをしている人だからとなると確かにキャラクター性を出す効果はあるなと思いました。
準決勝でウケていたとされる方のネタを二本目に回した理由は女装ネタが多かったからとYouTubeで話していましたが、2020年のM-1決勝でチョウチョのくだりを変えたことといい、準決勝から決勝の間の「優勝するための判断」というのはとても難しいんだなと思いました。
点数は453点。決して低い点ではないですが、二本目に進めないことが確定してしまう得点。屋敷さんは2019年のM-1と同様に松本さんに必死に絡みに行っていましたが、優勝候補とされていたことからの強い動揺が見て取れました。

・ザ・マミィ 道を聞く
岡野陽一さんの一番弟子のような酒井さん。次世代クズ芸人のイメージそのままのキャラの酒井さんが醸し出す悲哀、それに接する林田さんの優しさとおかしさ、そこからまたさらに感じさせられる悲哀。知らない感情を知っていく系のネタだけど蛙亭を上回るぐらいのウケだな…と思っていたら、それをそのまま歌い出してまた爆発。とにかくよくできていて、よくできている分のウケを取っていました。
点数は476点。この時点で二本目への進出を確定させる高得点になりました。

・空気階段 火事
設定がわかった時点で爆笑が起きる、素晴らしいネタです。さらにそこからもかたまりさんの素性がわかり、二人で団結したところで他の階の人たちの前に現れ、もぐらさんの部下たちの前に出て行き…と、展開と面白さとカタルシスを全部取りに行くすごいネタでした。
本来の空気階段のネタの雰囲気とは違う気もしますが、それだけに「やるだけやって絶対に優勝する」というものすごい熱意を感じました。
点数は486点。審査員5人の採点になってからの最高得点が出ました。

・マヂカルラブリー こっくりさん
野田さんの三冠がかかったマヂラブがトリで登場。導入の怖い要素をこれでもかと詰め込んでいるという設定はとても面白かったし、野田さんが吹っ飛んだのもめちゃくちゃ笑いましたが、そこから「あ、いつものマヂラブだ」と思われてしまって伸びにくかったかなと…。
「死んだ人が10円玉に操られたらこうなる」という想像力とそれを動きで見せる説得力は本当にすごいです。指先にくっついているだけの10円玉を通してこっくりさんの姿と感情が見えてきます。
村上さんが役のままのコントもたくさんあるので、準決勝の片方で漫才に近い形のネタを選んだというのはわかるのですが、ここだけを見てしまうとなかなか難しいなと思いました。
点数は455点で9位に終わりました。放送後の反省会で野田さんが負けたことがすがすがしいと語っていたのが印象的でした。

一本目が終わり、上位の空気階段、ザ・マミィ、男性ブランコが二本目へ。

・男性ブランコ お菓子
平井さん演じる男性の絶妙な語彙力がじわじわ来ます。これ、落とす時は落とさないといけないし落としちゃいけない時は落としちゃいけないから大変だと思います。
点数は463点。

・ザ・マミィ 告発
緊張と緩和がメインになるネタです。楽しい雰囲気はずっと出ていましたが、緊張の部分がちょっと弱いので、緩和としての笑いという点ではちょっと足りないかなと思いました。
でも二本目まで進んでの大熱演はとても印象に残りました。
点数は459点。

・空気階段 コンセプトカフェ
メガトンパンチマンカフェ、いいですよね。声に出して言いたくなります、メガトンパンチマンカフェ。
知らないアニメや漫画のタイトルを、メディアミックスやグッズの名前から先に知ることって結構あるじゃないですか。鬼滅の刃より先に「ダイドー鬼滅コラボ缶」を知ったみたいな。
そういう先に知った名前から作品の内容を想像させていくネタかと一瞬思ったら、そもそもメガトンパンチマン自体一人のおじさんが昔書いた作品でしかないという。
これは今年の単独ライブ「anna」の中のコントで、実際はもっと長くて単独ライブを通した世界観の中の一つのコントなのですが、これだけを切り出してもちゃんと面白いのは「もともと(世間的には)ない作品のコンセプトカフェ」という設定の素晴らしさが大きいと思います。
世間的にはそんな作品はない、でもおじさんの思い出や頭の中にはある。それを再現する謎の通貨とその交換システムやメニューの名前、そして主役のメガトンパンチマン。きっとセグウェイはおじさんが昔書いた時には実在していなかったけど、デビルキック伯爵の乗り物にそっくりだったんでしょうね。この形のセグウェイが発売された時に、おじさんは「自分の書いたあれだ!」と思ったんだろうなと。

点数は474点で空気階段の優勝!
キャノン砲の吹雪の中、一気に号泣するかたまりさんが印象的でした。


今回の大きなトピックは、ニューヨークが勝てなかったことではないでしょうか。
この忙しさで単独ライブをやって決勝に進んだだけで十分な偉業なのですが、賞レースはどうしても売れている人から順に期待されるので、優勝するしかない状況になって追い込まれていたであろう二人の精神状態を思うと…。

それでも最下位の点数が付いた時に屋敷さんが松本さんにぐいっと噛みついたのはさすがのプロ意識でした。ただ、ニューヨークは2019年とは違ってもう売れっ子なので、そんな彼らが噛み付くと、前とは見え方が変わったのかもしれません。

ニューヨークは毒や偏見が持ち味とされていて、この日のネタ前のVTRでもそう言われていましたが、知名度が上がったことで、世間や他の芸人さんたちに向けてきた毒が自分たちに回ってくるようになったのかもしれません。それは、「今回はどんな毒や偏見を見せてくれるんだろう」という期待の目で見られることと、「毒や偏見をネタにしているあなたたち自身はどういう人なのか」と自分たち自身が客体化して見られるということです。前者はネタだけに関するものですが、後者はネタ以外にも言える話です。

ニューヨークはもう立派な売れっ子です。そろそろ他者に毒づいた時に「そんな自分たちはどういう人なのか」という視点で見られるようになり、それを提示していく時期に来ているんだろうなと思いました。ファンはもちろん嶋佐さんと屋敷さんがどういう人たちなのかよく知っていますが、これだけ売れると自分たちをよく知らない人たちの目にもどんどん入るわけですから、自分たちの見方を提示するのは大事になっていくんだろうと思います。

でも、「毒や偏見のあるネタを見せてくれるはず」という期待をかけられるのは大変ですね。ニューヨークのネタの切れ味に対する期待が高まりすぎて、ただ面白いネタをやるだけでは期待外れだと言われてしまうのですから。
まさかそんなことを言われるために毒や偏見を笑いにするネタをやっていたわけではないはずで、否定しないツッコミを生み出して評価されたはずが優しいことを言わないとがっかりされるようになったぺこぱを思い出しました。

優しいネタというと、今回の決勝はいわゆる優しい展開と言われるコントが多かった気がしますが、そこに「世間が求めているから」という理由を求めるのはちょっと違うかなと思います。

ネタで笑いを取る方法の一つとして「意外性」があります。「普通ならこうなりそうなのに違うことをする」というのが笑いになるわけです。
たとえば、ザ・マミィの一本目だと、道を聞く時に普通おかしなおじさんは選ばないのに声をかける、クラブに行く道なんて知らなさそうなのに聞く、すぐに信用して荷物を預ける。このネタが面白いのは、林田さん演じる人が優しいからではなくて、「普通しないことをしている」から、そして「普通ならこうしないというのが誰の頭にもあるから」です。みんながみんなおかしなおじさんに警戒心を抱かない世の中なら、このネタは成立しないのです。

TVerで過去の大会が配信されていましたが、前の大会であればあるほど変な人に出くわしてツッコミを入れ続けるネタが多かったように思います。
ただ大会が進んでくると、優しいネタにしたいからというより、その方が意外性が出るし後半の展開も付けやすい、他の出場者との差を付けやすいという理由で戦略的にそういうネタを作る人が増えてきた可能性はあると思います。

たとえば空気階段のネタの一本目は、SM好きな消防士と一般のSM好きなお客さんという設定で作ることもたぶんできます。でも、一般の人が消防士にずっと振り回されて「なんだよこいつー!」とツッコミを入れながら脱出していくより、途中でもう一人が警官だと明かしてそれぞれの職務を全うしていく形にした方がはるかに面白いんだと思います。
もちろん、消防士の振り回し方の大喜利や一般の人のツッコミの入れ方がめちゃくちゃ面白かったらそれを上回る爆発を起こせる場合もありますが、平均点として高いのはこちらの方なのかなと。

そもそも、面識のない変な人に出くわした場合、ツッコミを入れ続けるというのは状況としてとても不自然なんですよね。コンビニの店員さんが変だったら黙って立ち去るか黙って会計をして出て行くかで、その店員さんのやることに「いや何してんだよ!」といちいちツッコミを入れたりはしません。だからそういう系のネタの場合にはその場を立ち去れないという理由がちょっと加えられていることもあると思います。漫才コントで「俺コンビニの店員やりたいからお前客やって」とやる方が、漫才師が互いに役としてやっている以上、立ち去らずにツッコミを入れ続けることが不自然と思われにくいと思います。

今回の決勝は過去にないほどハイレベルで、どの組もちゃんとウケていました。以前はどの組もウケにくくて多少ウケたところの点数を上げざるを得ないという回もありましたが、みんながウケていることで、審査員がそれぞれの尺度で点数を付けられるようになりました。
その結果、出会った変な人にツッコミを入れ続けるネタよりも、受け手の方にも設定を乗せて、何かそれ以上の関係性を意外性としてネタを展開させていくタイプのネタの方が完成度が高いと審査員に評価されたのではないでしょうか。それは、意外性を出して展開を作っていく手法としての評価であって、優しいか優しくないかではないと思います。
とにかく賞レースの趨勢というのは動きが早いものなので、この結果を見て安易に「優しいネタを作ろう」と思う芸人さんは、来年のキングオブコントで埋もれてしまうかもしれません。それどころか、今年のM-1で早くもそれに対する揺り戻しが来ることもあり得ます。

さて、今回の決勝が盛り上がったのは、ちゃんと笑うお客さんが入っていたことと、そして審査員の顔ぶれによるところが大きいと思います。
このネタのどういう点がよかったのか、どういう点がいまいちだったのかをきちんと言葉にして話してくれる人たちだったから、反省会でもファイナリストの皆さんは納得したような表情をしていたのかなと思います。五人それぞれに尺度が違うことも伝わってきたから、「この人は自分たちを評価してくれた」という励みにもなりやすそうですし。

大会としての盛り上がりや運営面でいろいろと言われることの多いキングオブコントでしたが、新審査員に選ばれた四人は、優勝後本当に立派にキャリアを重ねてきた人たちでした。

単独ライブの動員を着実に伸ばし続け、舞台で食べていくコント師としての定評とお笑い愛の強い東京の兄貴分としての信頼を得た飯塚さん。
害虫駆除のバイトから劇的な優勝を果たし、アメ車に乗って革ジャンを着て賞レースドリームを体現し、ネタ番組にも出るしMCもガンガンこなす小峠さん。
メンバーそれぞれの得意分野がありながらトリオとしての活動もして、クリエイターズファイルなど誰にも作れない世界観で人を魅了し続ける秋山さん。
蓄え続けた実力でKOC優勝とM-1準優勝を勝ち取った末に華と人気も手に入れ、今や超売れっ子コンビのブレーンとして一目置かれるようになった山内さん。

すごいものを同時にたくさん手に入れていて、でもネタもちゃんとやっていて、さらにお笑いを言語化できる人たちを歴代チャンピオンから四人揃えられたことに、本当に痺れました。
松本さんが事前番組で「自分がいなくてもやれるようになってほしい」という趣旨のことを言っていましたが、こんな顔ぶれが揃えられるならそれも遠い日のことではないかもしれません。

ファイナリストのコントはどれも面白いし、審査員のコメントもためになるし、最高の賞レースでした。ただそれだけに、何かしらをシークレットにするのはもう勘弁してほしいです。

今は芸人さんが賞レースの感想を発信することも多いので、ここ数年は自分のような素人が感想を書くことに何か意味があるのかなと思っているのですが、素人なりにお笑いについて考えるのはやっぱり大好きだし、自分の考え方の整理や記録のためにこの記事を書きました。

芸人の皆さん、審査員の皆さん、ファンの皆さん、お疲れさまでした!


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