2021年12月

2021年12月28日

今年は3回戦と準々決勝は気になった組の動画を見る程度で、準決勝は全部見ています。

・モグライダー さそり座の女 637点
初決勝組の中では期待されていたモグライダーがトップバッターに。
「さそり座の女はイントロのところで美川憲一さんに星座と性別を聞いた人がいる」という話題の切り出し方が衝撃的なネタ。準決勝ではうねるような爆笑が起きて、私も胃が裏返るぐらい笑いました。
前のモグライダーのネタはおそらく中身をあまり決めていなくて、ともしげさんが言い間違えていくのを芝さんが臨機応変に完璧に拾っていくというものでした。でも今回はきっちり構成を決めてきて、そうしたら準決勝に初めて進出して決勝にも来られたという。
トップバッターでこの点数は素晴らしいです。もっと後の出番なら確実に上位に絡んでいたはず。

・ランジャタイ 風猫 628点
「何やってるんだ」と思っているうちに面白くなってくるのがランジャタイだと思います。なので「何やってるんだ」と思ったまま置いて行かれてしまう人もいる漫才ではあるのですが、去年の敗者復活で知名度を上げてこの一年は露出が増えていたので、見る人を巻き込む力が増してウケるようになっていたと思います。準決勝はバスケ(バスケットボールゴリラ漫画ゴリラとは違うネタ)で、今回のネタの方がかなり笑いどころをわかりやすくしていたかなと。
笑神籤で呼ばれた時も、スタジオまでの長い廊下を歩く時も、ずっと国崎さんがウケていたのが印象的です。「浅草キッド」を見た後なので、もしたけしさんなら絶対全箇所でボケるだろうなと思いました。
点数は628点。ちゃんとウケてその後の受け答えでも笑いを取るという理想的な展開だったと思います。後の組の審査コメントでもたびたび名前が出てきましたし。

・ゆにばーす ディベート 638点
準決勝と同じネタ。準決勝は最初の手拍子のつかみでドカンといって、その後もずっと爆笑を取っていました。
準決勝は序盤にニューヨークが「ドラマ」のネタで男女の違いみたいなものを扱っていて、切り口としてはゆにばーすがそれを上回ったような印象がありました。でも今回の決勝だと「やっとまともな漫才が出てきた」という感じになってしまったのかもしれません。審査コメントでもありましたが、はらさんが本当にうまくなっています。
ウケていたのに点数が伸び切らず。この点では優勝できないと悟ったかのような川瀬さんの表情が印象的でした。

・ハライチ(敗者復活) 636点
準決勝とも敗者復活とも違うネタ。ハライチはネタが多彩な分、岩井さんがやりたいものと見る側が期待するものが一致しない時があり、今回はそれに当たってしまったかなと思いました。それでも審査員は高評価の人もいたので、最後に見せたい自分を見せるという岩井さんの意図は当たったと思います。エリートで前のM-1から決勝に進んでずっと売れ続けてきたハライチが完走したんだなあと思いました。

・真空ジェシカ 一日市長 638点
準決勝と同じネタ。
審査コメントでも触れられた通り、センスに溢れた漫才をする人たちです。一つ一つのボケは卓越した発想力から生み出されたもので、それが全て刺さる人もいる反面、ボケが並列になっていると感じる人もいると思います。なので、真空ジェシカがはまる人はなぜはまらない人がいるのかいまいち理解できず、はまらない人はなぜはまる人がいるのかいまいち理解できないという、意外と好みが別れる芸風だと思います。
私の中では川北さんは霜降り明星の粗品さんと対になっている人です。それは2013年に見たR-1の準決勝に二人ともいて、二人ともセンスを爆発させた羅列型のフリップネタを披露していたからです。粗品さんは売れる前だから確か髪がボサボサで(エントリー名も「霜降り明星佐々木」でした)、見た目の印象も重なっていました。卓越したフリップネタの発想にせいやさんという表現者を得て完成したのが霜降りの漫才なのだと思います。

・オズワルド 友達 665点
ここまでの5組が10点差以内に収まる接戦。頭一つ抜け出す人を求める空気の中、本命視されたオズワルドが登場。
畠中さんの朴訥とした風貌と不穏なボケのギャップ、伊藤さんの多彩なツッコミの技術。東京漫才の粋を極めたネタだし、ありネタをブラッシュアップしきったオズワルドのベストアルバム的なネタと思います。準決勝でもニューヨーク、見取り図といった常連組の中で頭一つ抜けた爆笑を取っていました。
ここまでで一番のウケを取り、審査員から軒並み高得点を獲得しました。

・ロングコートダディ 生まれ変わり 649点
準決勝と同じネタ。生まれ変わりをおかしなものにされる設定もさることながら、「宣告される」→「細かい設定をもらう」という二段構えの構造にうなります。別に同じ人が設定も言ったっていいんですが、移動して設定を聞かされるという面白さによって「天界全体」というスケール感が出てくるんですよね。そしてなぜ肉うどんなのか。肉と麺と出汁で一つの自我なのか。
準決勝ではこれは行ったなというウケでした。決勝でも立派にウケて649点。打ち上げの配信によると、最後のワゴンR以外の候補は若女将、ワイルドスピード2、割り勘のアプリだったそうです。全部面白い。

・錦鯉 合コン 655点
準決勝と同じネタ。準決勝の錦鯉は序盤からめちゃくちゃ面白くて、さらに後半でバキバキに笑いを取るネタなので完成度がすごかったです。(その直後に出てきて同じバカ路線でやっぱり爆発したモグライダーもすごかったですが)
去年のパチンコのネタはいわば準決勝の壁を突破するためのネタで、錦鯉のこれまでのネタの中ではややトリッキーだったと思います。一度突破した後は自分たちの強みを発揮したネタを出してくるというさすがの周到さでした。

・インディアンス 心霊動画 655点
2019年に「おっさん女子」のネタで準決勝の壁を突破したのがインディアンスです。今回の準決勝は最後に「どうも〜、インディアンスで〜す!」で喝采をもらうことでまた壁を乗り越えたように思いました。
漫才はとにかくすごい、今回は出番順も後半で流れに乗ってウケまくる。でも頭一つ抜けるには至らない程度の点数。上沼さんが98点を付けましたが、他は全員94点以下。厳密に考えれば一つの笑いどころあたりの点数がとても低いことになるし、こんなにウケてこの点なの?と思うとさらにトータルで減点されて付いているような点数です。

・もも 欲しいもの 645点
わずか結成4年目。去年M-1前の時期に劇場で予備知識なしで初めて見て、近い将来必ずM-1の決勝に行く人たちだと確信しました。たぶん彼らを見たことがある人はみんなそう思っているはずです。そして思ったより早く上がれたのがすごい。
こちらは準決勝とは違うネタ。巨人さんにも指摘されていましたが、意外とスロースタートなんですよね。見終わった後は「○○顔」の応酬のような記憶が残るのに、もう一度見るとそれが始まるのが意外と遅い。全ウケに至らなかったのが残念でした。まもる。さんがせめる。さんをいじるターンの方が打率が高いように感じたので、ヤンキー顔をいじって笑うことに抵抗を感じる人が多いんでしょうか。とはいえ、これからにもとても期待ができるコンビです。こんな殴り合いの言葉の応酬ができる発想も技術もすごい。松本さんの「3年後優勝顔」は最高のコメントですね。

以上10組が終わり、上位のオズワルド、錦鯉、インディアンスが最終決戦へ。

・インディアンス
1本目にひけを取らないぐらいにウケているので、他がいまいちなら全然あるかもという出来でした。

・錦鯉 猿を捕まえる
50歳が合コンに行く設定も十分面白いのに、「猿を捕まえたい、業者よりうまくやれる」って!
まさのりさんの何がすごいって、セリフはもちろんバカなんですが、細かい仕草も全部ちゃんとバカなんですよね。手の振り方とか足の置く場所とか口の動かし方とか目のギョロつかせ方とか、細部に至るまでしっかりとバカが行き届いている。だからバカキャラとかじゃなくて、まさのりさんという人そのものの面白さが迫ってくる感じがあります。
そしてそこに渡辺さんのツッコミです。みんな言っていることですが、「じゃあもういいじゃねえかよ」が痺れましたね。
最後の寝かせるところ、中盤の回収になっているところももちろんですが、緩急というか、あんな静かにかつバカバカしく終われるところに中年の悲哀以上の余裕を見ました。そして「ライフイズビューティフル!」の意味を実はまさのりさんは知らないという。

・オズワルド 割り込み
1本目1位のオズワルド。ウイニングランが始まるのかどうなのかという目で見始めた我々の前で繰り広げられたのは、なんだかどうしてもウケきらない漫才。あれ、あれ、そろそろ盛り上がり始めないと…とみんながじりじりしていただろうし、本人たちはもっと焦っていたと思います。
打ち上げの配信で、伊藤さんが「君らは猿は出さないの?という目で見られた」「喋れば喋るほど目に見えて優勝が遠のいた」と言っていました。セリフも間違えてしまったとのこと。アナザーストーリーでも、錦鯉のネタに起こる笑いに耳を塞いでいるように見える伊藤さんが映っていました。

これですべてのネタが終了。
最終結果は錦鯉5票、オズワスド1票、インディアンス1票で錦鯉の優勝!

固く抱き合うまさのりさんと渡辺さん、そして大号泣するまさのりさん。塙さんや富澤さんも泣いていたのが印象的でした。

というわけで今年の優勝は錦鯉でした。M-1、キングオブコント、R-1を通じて北海道出身者の優勝は初めてです。そしてSMAは吉本以外の事務所では初めてこの三つの賞レースを全て制覇したことになります。おめでとうございます。

インディアンスは打ち上げ配信で「優勝するのって難しいんですね」と言っていましたが、かなりウケていたし他が圧倒的にウケたわけでもないのに点が付かない。それで視聴者から「なんでインディアンスが優勝じゃないんだ」「なんで点数がもっと伸びないんだ」という声がたくさん上がるわけでもないのがインディアンスだなあと思います。

超本命視されたのはオズワルドでしたが、終わってみれば錦鯉の横綱相撲に見えました。
去年はまさのりさんのキャラを知ってもらうネタで準決勝を突破し、今年は準決勝と決勝の両方でネタの構成が見事にはまったウケを取り、ネタ巧者といえるオズワルドに見事に勝利しました。単にバカキャラで押し切ったからではなく、去年M-1決勝に初進出して今年勝ち切る、理想的な展開での優勝。まさに横綱相撲だったと思います。

さて、ファイナリストが発表された時は「まるで地下ライブのよう」「地下芸人の勝利」みたいな言われ方が多かったですが、準決勝は紙一重の戦いだったと思うので、吉本が全然ダメで非吉本がすごかったというようなことは全くないと思っています。準決勝ではマユリカ、ヘンダーソン、カベポスターといった漫才劇場勢が非常に惜しかったと思いますし、ニューヨークや見取り図ももちろん上がってもおかしくなかったと思います。本当に紙一重の戦いでした。

そんな中でも、モグライダーが決勝に進出したのが印象的です。
もちろん記憶違い認識違いはあるかもしれませんが、東京ライブ界隈についての自分の記憶によると、モグライダーが話題になり始めたのはTHE MANZAIの時期で、「ハプニングにアドリブでツッコミを入れるとんでもない漫才師がいる」と評判になりました。
当時はともしげさんが本当にただ間違えて、それに応じたツッコミを芝さんが入れるというのがモグライダーの漫才でした。
モグライダーは売れなきゃおかしい、芝さんは天才だと言われてきたものの、一度認定漫才師になって、M-1が再開されてからは準々決勝止まり。ハプニング性があってどう転ぶかわからないという漫才は、賞レースの場ではなかなか爆発しにくいんだろうなと思いました。作ってる感がないようにするのが漫才とはいえ、なさすぎるのも違うという印象になるのかもしれません。
二人の各所での話によると、この一年はM-1を目指してちゃんとした台本を作るようにしたそうです。準決勝で「さそり座の女」を見て、ちゃんと練ったモグライダーの漫才はこんなにすごいのかと思わされました。

東京非吉本の芸人さんを指して地下芸人と言うことが増えましたが、モグライダーは非吉本の中ではわりと知名度がありメジャーなライブに出ていたので(最近はわからないのですが)本来の意味での地下芸人ではないかもしれません。
ただ、圧倒的に才能がある芝さんは、メジャーなライブの中でさえ「どうしてこの人がここにいるのか」と思わされる存在でした。だからモグライダーが売れないのはおかしいと言われてきたわけで。
永野さんやザコシさんのように地下の帝王が地上に出てきてちゃんと売れたというパターンもありますが、錦鯉やモグライダーは「地下にはすごい芸人がいる」のではなく、「地下とは思えないほどちゃんとしたことをやっていた」という方がしっくりくる気がします。
一番話題になった時期も過ぎて、準々決勝止まりだったモグライダーが40歳手前になろうかという頃にこんな漫才を仕上げられて本当に良かったと思います。

東京非吉本の地下ライブも、地下ライブに分類されないライブも、芸人さんやお客さんにとってあまり快適な環境とは言えません。楽屋が小さいから外でネタ合わせをしないといけなかったり、入場待ちは外で並ばないといけなかったり、トイレが一つ二つしかなかったり。厳しい環境だから、必然的にお客さんもある程度若くて体力のある世代が中心になります。

あと、非吉本は劇場を持っていない事務所がほとんどで、芸人さんは外部の主催ライブに出ることになります。そして外部のライブはやはり集客が大事になるので、芸歴を重ねてくると出られるライブが少なくなってくるという現状があります。中堅以降の芸人さんが漫才協会に入ることが増えているのは、そうしないと立てる舞台がなくなるからというのもあると思います。
非吉本でM-1、KOC、R-1を制覇したのが劇場を持っているSMAであるという点は、おそらく偶然ではないはずです。

いかんせん「浅草キッド」を見た後なので、結局東京芸人の本拠地は浅草になるということがちょっと感慨深くもありますが、もう少し間口が広くなってほしいなと思います。
地下ライブに脚光が集まったとしても、そういった環境や現状が改善されることはなかなか見込めないので、いつかどうにかなってほしいなあと思う次第です。

M-1は今年も楽しかったです。お笑いブームが過熱する中、その期待に応えるようなハイレベルな戦いでした。芸人さん、スタッフの皆さん、ファンの皆さん、お疲れさまでした。


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