2022年12月19日


準決勝の記事はネタバレ防止でネタのタイトルを書いていませんでしたが、決勝も終わったのでネタのタイトルを足しました。

一本目

・カベポスター 大声大会
準決勝と同じネタ。ABCの決勝でやっているのでお笑いファンならみんな知っていると言っても過言ではないと思います。それに加えて爆発力があるとは言えないネタなので、トップにしてはウケるけどそれ以上の加点は難しいかなと思いました。点数は634点。平均は90点ちょっとなので、トップバッターなりの点数でした。

・真空ジェシカ シルバー人材センター
準決勝と同じネタ。去年より風格が出た感じがしますし、準決勝では漫才コント勢の中では違いを見せつけるセンスと見せ方でした。
点数は647点。92点平均でした。松本さんから声のバランスの指摘がありましたが、ずっと気になることではあります。本人たちの中ではまだ向いているバランスを探してこういう形になっているのかもしれませんが。

・オズワルド 明晰夢
準決勝と違うネタ、敗者復活と同じネタ。ビスブラの英語のネタと同じようにと言うのが正しいのかはわからないですが、ボケの人自身が世界観の中に入っていて、それとツッコミの人のいる世界観の違いで笑わせるようなネタです。単純に、すごく難しい設定なんですよね…。つかみがうまくいかなかった感じで、去年の猿の後みたいなふわふわした空気が続いていました。
点数は639点。

・ロングコートダディ マラソン
センスの塊の堂前さんと、何をやっても反則級の面白さを出せる兎さん。コントをやっても漫才をやっても最強のコンビだなあと思わされます。大喜利的なセンスで作る漫才なら、片方が変わったランナーを延々とやってもう片方が説明やツッコミをするという構成はありうるのかもしれませんが、二人でそれを延々とやっていくのが本当にすごい。
点数は660点。1位通過もありうる高得点が出ました。

・さや香 衰え
準決勝と同じネタ。めちゃくちゃ面白いですよね、これ。かまいたちの亜流というか発展形というか、普通の喋りから気がつけば支離滅裂な会話になっているのがすごい。熱の入った分だけ笑いになっていて、準決勝と同じように大爆発しました。ボケツッコミを変えたと言われていますが、「もうええわ」を言うのは石井さんなんですね。
点数は667点。前の時はウケていたのに点がつかなかったですが、今回は審査員からも絶賛。決勝に戻ってきてこれだけウケるのは本当にすごい。

・男性ブランコ 音符
準決勝と同じネタ。すごく面白いんですが、音符が逆なのが準決勝の時も気になりました。あと音符は二種類だけでその後は音符じゃないのと。それでもすごいネタなのは事実です。
点数は650点。松本さんが高評価なのがらしいなあと思いました。

・ダイヤモンド 居酒屋
準決勝と同じネタ。その時もウケが上位だったとは言えず、準決勝を見て決勝予想に入れていた人もほとんどいないのではないでしょうか。こういうところで見ると、実際の実力以上に素人っぽく見えてしまうので笑ってもらいにくかったのかもしれません。もう少しぐらいはウケていいと思うけど…。
点数は616点。明確な下げどころになってしまいました。

・ヨネダ2000 餅つき
準決勝と同じネタ。ハリセンボン以来の女性コンビのファイナリスト。女性コンビではありますが、THE WよりM-1の方が決勝の舞台ではるかに映えると思います。お客さんを置いていくこともなく、きっちりウケていてすごかったです。
点数は647点。ウケている割に点が伸びきらないことも、芸風からして納得されやすかったかもしれません。

・キュウ 違うもの
準決勝と違うネタ。準決勝でトップクラスにウケていた自己紹介のネタから変えた理由はわかりませんが、二本目に温存したか、まずは名刺代わりにやりたいネタだったのか。
ダイヤモンドと同じ感じになってしまっていました。こちらは素人っぽくもないと思うんだけど…。審査コメントでも言われていましたが、こういう芸風だとウケていないとなった時にどうしようもないんですよね。
点数は620点。

・ウエストランド あるなしクイズ
準決勝と同じネタ。またしてもトリになったウエストランドですが、今年はすごかった。怒りながら自分の口にした言葉でまた怒りに拍車がかかる人を見ているようで、悪口のアクセルがどんどん踏まれていく感覚になる構成のネタ。井口さんがなんでもかんでも銃口を向けていく姿には爽快感がありました。恋愛映画とかの悪口に笑っていたら、お笑いファンの自分にも銃口が向いてくるんですもの。飛び出す映画を見てるみたいなネタでした。…すみません、分析してしまいました。趣味なので。
点数は659点。男性ブランコを抜き去り、最終決戦へ!

ここまでの上位三組、さや香、ロングコートダディ、ウエストランドが最終決戦に進出。

最終決戦

・ウエストランド あるなしクイズ
続けてのネタ披露になりましたが、結果的にはウエストランドをそれだけ長い時間見ているような感覚になれて有利だったのかもしれません。準決勝でトークとトップバッターで長い時間舞台に立っていた深海魚の後に空気が切り替わらなかったのと同じようなことです。
最初の「アイドルにあって役者にない」でアイドルに悪態をつくのはもちろん、役者の方もディスり始めたのが最高でした。いいものと悪いものの対比ですらないんだっていう。
ついに同業者へも銃口を向け、自分が立っている賞レースの舞台にも悪態をつく井口さんは最高でした。

・ロングコートダディ タイムマシン
一本目と似たようなことの繰り返しになりますが、堂前さんの発想力に加えて巻き込まれる兎さんの面白さという組み合わせはとにかくすごいです。ただ、なんでガッツポーズしてるのとか、去年の太秦はどうなんだろうとか、気になるところは多少ありました。でもやっぱり設定のディティールの発想が独特なんですよね。

・さや香 男女の友情
これは去年の準々決勝のネタなんですかね。前半の大人の関係みたいな話でお客さんが引いてしまったように思いました。結果的には別にそういう話ではなかったというネタですが、もうこの程度の下ネタっぽいものですらお客さんがうっすら離れて行ってしまうんですよね。それでも後半はすごく面白かったです。

これは票が割れるかなと思ったら、ウエストランド6票、さや香1票でウエストランドの優勝!
河本さんの清らかな涙が印象的でした。

というわけで、ウエストランドの優勝に終わりました。おめでとうございます!

今年は審査員が入れ替わりましたが、結果を見ればすごく妥当な点数分布と順位になったと思います。評価が割れる組が多かったので、審査員のいろんな基準が見えてよかったです。

この結果を受けて、人を傷つけるネタが評価される時代になったというような意見が早速出てきていますが、そこまで価値観が逆転することはさすがにないと思います。
悪口はタブーで、タブーをたまに破るところに人が面白さを感じるということは変わらないわけで。万一悪口っていいよねとなったら、タブーを破る面白さがなくなって悪口ネタはすぐに飽きられて、その反動で悪口を言わないネタが今度は評価されるようになるはずです。そういうヒリヒリした良さがあるものって、浸透したら一気に陳腐化してしまうじゃないですか。
あとは井口さんの今回の毒舌は、独自性の高い怒りというよりは、共感の笑いみたいな感じだったので、極端なことを言えばいいというものではなく、結局共感させる力の高さ次第じゃないかと思います。

今回とても印象に残ったのは、敗者復活戦の結果でした。最下位がママタルト、その一つ上がストレッチーズという…。
非吉本ライブ界のトップにいる二組が、やっと準決勝に上がれたら視聴者からこんなに露骨にそっぽを向かれるという現実の厳しさ。ヤーレンズは上位にいましたが、そもそも元吉本ですし。
途中経過で表示される視聴者のあの採点は、結構侮れないと思うんですよね。お笑いファン以外も見てるとか、そんな風に無視するのはもったいない大きなデータだと思います。

ストレッチーズは、ライブだと二人の言い合いが始まったところでもう食い付かれるようにウケますが、M-1グランプリという場で水かけ論のネタを見るとすごくかまいたちっぽく見えてしまったのがびっくりしました。知っているネタですが、そう見えたこと自体が初めてだったので。場の力というか、大会自体にある価値観の影響なのか、「これは見たことあるかもしれない」というのがその場に立って初めて見えてくるのかもしれません。

ウエストランドは非吉本じゃないかと思うかもしれませんが、非吉本のライブ界の主流にはいないんですよね。キュウはそこそこ出ているかもしれません。
ライブ界隈は吉本の劇場システムとは違って結構外の世界での評価と齟齬があって、出世して売れて行くシステムができていないというのは再三言っていますが、やっぱりそこの問題はずっと解決されないんだろうなと思います。そもそもシステム自体が存在していないので。
それでもママタルトやストレッチーズはライブに戻ればまたいつもウケるはずなので、ここから何かを変えて行くのは難しいのかもしれません。

全てのものに銃口が向いていく勢いがあったウエストランドの漫才は最高でした。悪いものと正しいものがあるんじゃなくて、どんなものにも何かしら引っかかるところがあるというのを実感するネタでした。
個人的には、マシンガンズが決勝に上がっていたらこういう感じで全てを斬って笑いを取っていたのかなと思えて、感慨深いものもありました。

今年もM-1は楽しかったです。
皆さんお疲れさまでした!


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